TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説
不耕起播種大豆の基肥施用で苗立ち低下と減収が発生
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大豆の不耕起播種は、麦跡作における適期播種を可能にする技術として関東地方を中心に普及が進んでいる。しかし水田転換畑では苗立ち不良が起こりやすく、これに化成肥料の基肥施用が重なると苗立ちの低下や立ち枯れが助長され、立毛数の減少による減収が生じやすいことが現地試験で示されている。関東地域での不耕起栽培では、基肥を施用しない方が苗立ち・収量の両面で有利とみられる。
科目: 作物(crop) / 栽培区分: 慣行栽培(conventional)
原理:なぜ基肥施用が苗立ち不良を助長するのか
不耕起播種では土壌が耕起されないため、圧密化した層が残りやすい。とくに枕地(ほ場端の旋回部)は機械の通行で踏圧を受けやすく、水田からの浸透水や用水の漏水を受ける給水側枕地付近ではさらに土壌水分が過剰になりやすい。こうした条件下では種子周辺の酸素不足や過湿が生じ、出芽・苗立ちが劣る傾向がある。
ここに化成肥料を基肥として播種時に施用すると、肥料成分が種子や幼根に近接した状態となり、苗立ちの低下がさらに強まることが観察されている。試験圃場の枯死株からは茎疫病菌が分離されており、過湿や生育不良によって病原菌への感染・発病リスクが高まっている可能性がある。ただし、苗立ち不良を助長する具体的な肥料成分の特定や発病を助長する機作については、今後の解析が必要な段階である。
現場での手順・判断基準(チェックリスト)
- 不耕起播種を予定するほ場で、過去に茎疫病等による苗立ち不良が発生したことがあるか確認する
- 枕地、とくに給水側枕地や水田からの漏水の影響を受けやすい区画を把握しておく
- 排水性を確認する。排水不良で滞水が繰り返されるような激発条件では、基肥を省略しても苗立ちは改善しない点に留意する
- 関東地域の主要品種「タチナガハ」「納豆小粒」を栽培する場合、基肥施用による苗立ち低下・立ち枯れのリスクを踏まえて施肥設計を見直す
- 基肥省略を選択する場合も、土壌養分(有効態燐酸、交換性カリ、全窒素)の長期的な変化をモニタリングする
項目 | 基肥施用あり | 基肥省略 |
|---|---|---|
出芽・苗立ち | 有意に低下 | 相対的に良好 |
立ち枯れ(納豆小粒) | 発生がみられる | 発生が抑えられる傾向 |
収量 | 減収がみられる | 相対的に安定 |
適用条件 | – | 排水不良・滞水の激発条件では効果限定的 |
慣行栽培と有機栽培での違い
本成果は化成肥料を用いた慣行栽培の基肥施用を対象とした試験であり、有機栽培における施肥資材(堆肥等)への知見ではない点に注意が必要である。有機栽培で緩効性の有機質資材を用いる場合、化成肥料とは肥効発現の速度や局所的な濃度が異なるため、同様の苗立ち低下が生じるかどうかは本成果からは判断できない。いずれの栽培体系であっても、不耕起播種ほ場では排水性と圧密状態の確認が苗立ち確保の基本となる。
よくある失敗と対策
- 「基肥を入れた方が初期生育が良いはず」という慣行栽培の発想をそのまま不耕起播種に適用し、苗立ち不良を招くケース。関東地域の不耕起栽培では基肥省略を基本方針として検討する。
- 排水不良ほ場で基肥を省略しただけで苗立ち改善を期待してしまうケース。排水対策そのものが必要であり、施肥の有無だけでは解決しない。
- 枯死株の原因を施肥のみに求め、茎疫病等の病原菌の関与を見落とすケース。枯死株からの病原菌分離状況も踏まえた総合的な判断が求められる。
まとめ
水田転換畑での大豆不耕起栽培では、もともと出芽・苗立ちが劣りやすく、とくに圧密化しやすい枕地や給水側枕地付近でその傾向が強い。ここに化成肥料の基肥を播種時に施用すると、苗立ちの低下や立ち枯れが助長され、立毛数減少による減収につながることが関東地域の現地試験で確認されている。そのため関東地域の大豆不耕起栽培では基肥を施用しない方針が推奨される。ただし排水不良で滞水が繰り返されるような激発条件では基肥省略だけでは苗立ち改善は期待できず、排水対策との組み合わせが必要である。基肥省略を長期的に続ける場合は、土壌養分のモニタリングを通じた評価も欠かせない。
現場で使える!専門用語ミニ辞書
- 不耕起播種(ふこうきはしゅ)
- ほ場を耕起せずに前作の跡地にそのまま播種する方法。適期播種がしやすくなる一方、土壌の圧密や排水条件の影響を受けやすい。
- 基肥(もとごえ)
- 播種・定植前後に施用する肥料のこと。作物の初期生育を支える目的で使われるが、施用のタイミングや方法によっては生育に悪影響を及ぼす場合がある。
- 苗立ち(なえだち)
- 播種後に種子が出芽し、健全な株として生育を開始すること。苗立ち率はその後の収量を左右する重要な指標となる。
- 茎疫病(けいえきびょう)
- 疫病菌の一種による大豆の病害で、苗立ち不良や立ち枯れの原因となる。効果的な化学的防除法が確立されていない場合、耕種的対策が重要になる。
- 枕地(まくらち)
- ほ場の端にあり、農業機械が旋回する区画。機械の通行頻度が高いため土壌が圧密化しやすい。
- 立毛数(りつもうすう)
- ほ場に生育している株の本数のこと。苗立ち不良や立ち枯れにより減少すると、収量低下に直結する。
参考
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