TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

低アミロース米 新遺伝子を発見

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科目: 作物 / 栽培区分: 共通

水稲の食味を左右するアミロース含有率は、環境要因に左右されやすく成分分析にも手間がかかる形質だった。農研機構は良食味品種「おぼろづき」の親系統「北海287号」と耐冷性中間母本「北海PL9」について、低アミロース性を支配する遺伝子とそれぞれに対応するDNAマーカーを特定した。これにより幼苗の葉から採取したDNAだけで低アミロース性の有無を判定でき、炊飯試験を待たずに選抜を進められる点が最大の成果である。

ただし、この技術は直接ほ場で使う防除資材のような話ではなく、品種改良(育種)の現場で使われる選抜技術である。新卒スタッフが品種開発部門やアグリテック企業で遺伝資源管理に携わる場合、どのような理屈でこの選抜が成立するのかを理解しておくことは、今後の良食味品種の普及や交配計画を読み解くうえで役立つ。

なぜDNAマーカー選抜が必要なのか(原理)

アミロース含有率はイネの胚乳デンプンの性質を決める主要成分で、含有率が低いほど粘りが強く、良食味とされる傾向がある。しかし以下の2点が、成分測定による選抜を難しくしていた。

  • 登熟期の気温など環境要因によってアミロース含有率が変動し、同じ遺伝子型でも年次・地域で数値がぶれる
  • 正確な測定には一定量の精米サンプルが必要で、幼苗段階では判定できず、世代を進めてからでないと選抜できない

これに対しDNAマーカー選抜は、形質そのものではなく原因遺伝子に隣接するDNA配列の違いを検出する手法である。DNA配列は生育環境の影響を受けないため、幼苗の葉1枚からでも、将来その個体が低アミロース性を持つかどうかを高精度に判定できる。これにより交配後代の中から目的の遺伝子を持つ個体だけを早期に絞り込み、育種に必要な年数や労力を削減できる。

現場での手順・判断基準(チェックリスト)

今回明らかになった2つの遺伝子は、それぞれ異なる染色体上にあり、効果の大きさも異なる。

  • 「北海287号」の低アミロース性は第6染色体上の新規遺伝子Wx1-1に支配され、第10イントロンの37塩基欠失を指標にしたDNAマーカーWx-U1L3で選抜できる
  • 「北海PL9」の低アミロース性は第9染色体短腕上の遺伝子座qAC9.3に支配され、近傍のDNAマーカーRM23804(国際イネゲノム塩基配列解読プロジェクトが公開)で選抜できる
  • 「北海287号」×「北海PL9」の交配後代では、Wx1-1がアミロース含有率を7〜8ポイント、qAC9.3の北海PL9型対立遺伝子が2〜3ポイント、それぞれ低下させる
  • 2つの遺伝子は相加的に働くため、両方を持つ個体を選抜すればより低アミロースな系統を育成できる

育種担当者がこの情報を使う際は、以下の順で判断する。

  1. 交配集団からDNAを抽出し、各マーカーでPCR検査を行う
  2. Wx-U1L3陽性・RM23804の北海PL9型のいずれか、または両方を持つ個体を選抜する
  3. 選抜個体を次世代に進め、必要に応じて炊飯試験で最終確認する

慣行栽培と有機栽培での違い

この成果は品種育成段階の技術であり、慣行栽培・有機栽培のどちらで栽培する場合にも共通して利用できる。アミロース含有率の低下効果は遺伝的に固定されるため、栽培方法による化学肥料・農薬の有無で品質形質そのものが変わるわけではない。ただし、アミロース含有率は登熟期の気温や肥培管理の影響も受けるため、どちらの栽培方式でも登熟期の水管理・施肥設計は品質を安定させるうえで引き続き重要である。

項目

慣行栽培

有機栽培

利用できる遺伝子・マーカー

共通

共通

品質形質の固定

交配・選抜段階で完了

交配・選抜段階で完了

登熟期の管理の重要性

気温・水管理で含有率が変動し得る

気温・水管理で含有率が変動し得る

よくある失敗と対策

  • マーカー選抜だけで満足し、最終的な食味・品質確認を省略してしまう→地域・年次による変動要因があるため、本研究でも「アミロース低減効果は地域ごとに再確認する必要がある」とされている
  • Wx1-1の遺伝子情報を無断で利用してしまう→本研究の成果の活用には許諾が必要とされており、利用前に権利関係を確認する必要がある
  • マーカー情報を自己判断で使用方法を変更してしまう→新しい遺伝資源やマーカーを実際の育種計画に組み込む際は、試験研究機関や普及指導センター等に相談し、登録情報や利用条件を確認したうえで活用することが望ましい

まとめ

「北海287号」と「北海PL9」の低アミロース性を支配する遺伝子とDNAマーカーが特定されたことで、幼苗段階からの高効率・高精度な良食味品種選抜が可能になった。2つの遺伝子は相加的に働くため、組み合わせ次第でより低アミロースな系統の育成が期待される一方、効果は地域によって再確認が必要とされている。あなたの圃場や産地では、良食味品種の選抜や導入にあたってどのような情報を重視しているだろうか。あなたの現場の声を、記事下のアグリコメで聞かせてください。

現場で使える!専門用語ミニ辞書

アミロース含有率(あみろーすがんゆうりつ)
米のデンプンに含まれる成分の割合で、低いほど粘りが強く食味が良いとされる指標。品種の食味評価や選抜の基準として使われる。
DNAマーカー(でぃーえぬえーまーかー)
特定の遺伝子の近くにあるDNA配列の違いを目印にして、形質の有無を判定する手法。幼苗段階でも検査でき、環境の影響を受けにくい選抜ツールとして使われる。
QTL(きゅーてぃーえる・量的形質遺伝子座)
収量や品質のように数値で連続的に変動する形質に関わる染色体上の領域のこと。複数のQTLが組み合わさって形質全体を決めることが多い。
イントロン
遺伝子の中でタンパク質の設計情報として使われない配列部分のこと。本研究では、この部分の欠失が低アミロース性と関連する指標として利用された。
対立遺伝子(たいりついでんし)
同じ遺伝子座にある異なるタイプの遺伝子のこと。どちらの対立遺伝子を持つかによって、形質の現れ方が変わる。

参考

一次情報(原文)を確認する

アグリコメ 0

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