精密発酵で乳タンパクBLG量産へ 仏Verleyの戦略とは

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精密発酵(微生物を培養してタンパク質などの成分を生産する発酵技術)を使い、ホエイ由来の機能性タンパク質「ベータラクトグロブリン(BLG)」を製造するフランスのスタートアップVerleyが、量産体制の構築を本格化させている。共同製造拠点で20万リットル規模の発酵タンクへのスケールアップを進めており、来年の商業販売開始を目指す。本記事では同社CEOへのインタビューを基に、技術面・経済性・導入規模の3点から現状を整理する。

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BLGとは何か、なぜホエイ全体と競合しないのか

BLGはホエイ(乳清)タンパク質に含まれる成分の一つで、筋タンパク質合成を支える役割を持つとされる。Verleyはホエイプロテインアイソレートやコンセントレートと直接比較される存在ではなく、ホエイの一部であるBLGのみを高純度で製造している点が特徴だ。

高純度がもたらす機能性の違い

高純度化によって、従来の乳タンパクでは実現が難しかった機能性を発揮できるという。具体的には以下のような事例が示されている。

  • 100mlのプロテインショットに25gのタンパク質を配合しながら、低粘度・高い透明度と溶解性を維持
  • 1日に必要なタンパク質の25〜50%を100mlで摂取可能
  • 通常は9%が上限とされるUHT飲用ヨーグルトのタンパク質含有率を、独自の微粒子化技術により13%まで引き上げ

同社はこうした機能性を持つ食品・飲料向け用途を20種類以上開発しているとしている。

技術面:発酵よりも精製工程が課題に

CEOのステファン・マックミラン氏によると、現時点で力点を置いているのは発酵収率(タイター・イールド・生産性)ではなく、発酵後のダウンストリームプロセシング(DSP、精製工程)だという。

DSPとは

DSPとは、発酵液から目的のタンパク質だけを抽出・精製する工程を指す。精製ステップが増えるほど製品のロスが生じるため、同社は発酵で生成したタンパク質をできる限り100%に近い形で回収することを目指しているという。

発酵収率については「求める水準に達している」とし、現在の技術的焦点は量産時の再現性確保に移っているとみられる。

経済性:価格はArlaと同水準、スケールで低下へ

価格面では、乳由来のBLGを販売するデンマークのArla社と同じく、1kgあたり40ドル超で価格パリティ(同水準)にあるという。Verleyはホエイ価格との直接競合を避け、機能性による付加価値を訴求する戦略を取っている。そのため、ホエイ価格が下落しても自社の価値提案が損なわれることはないとの見解を示した。

今後は生産量の増加と製造プロセスの改善により、価格を引き下げる余地があるとしている。

主要プレイヤーとの比較

項目

Verley(精密発酵)

Arla(乳由来抽出)

製法

微生物発酵によるBLG生産

牛乳からBLGを直接抽出

価格目安

40ドル/kg超

40ドル/kg超

現在の規模

20万リットルタンクへスケール中

既存の乳業インフラを活用

販売状況

来年から商業販売予定

既に自社サイトで販売中

導入規模:資金調達と自社工場の壁

Verleyは今年、3200万ユーロ(約3600万ドル)のシリーズAを調達した。CEOによれば、このラウンドで求められるマイルストーンは「生産と販売」であり、技術・マーケティング・規制対応・特許については既に達成済みという段階にあるとしている。

規制の進捗状況

  • 米国:2025年9月にGRAS(安全性に関する「異議なし」通知)を取得
  • カナダ:次の承認対象として準備中
  • 欧州:ノベルフード(新規食品)申請を通じて今後2〜3年での承認を見込む
  • 主要ターゲット市場は北米・欧州・GCC(湾岸協力会議)地域で、将来的にはアジア展開も視野

自社工場建設への慎重な姿勢

CEOは、VC(ベンチャーキャピタル)資金で2億ドル規模の工場を建設するのは現実的でないと述べている。VC資金はリスクマネーであり、技術・市場・オフテイク(将来の買い取り契約、今後4年分の生産量の約80%に相当する契約)が確定した段階で初めて、インフラ融資や負債による資金調達に移行できるという考え方を示した。現時点では共同製造拠点(co-manufacturer)を活用する形で量産を進めている。

資金調達環境の変化

CEOは「フードテック投資における熱狂の時代は過ぎた」とし、精密発酵企業が投資を得るために証明すべき点を3つ挙げている。

  1. 市場が実際に存在すること(製品を作れば市場がついてくるという発想はもはや通用しない)
  2. 市場に適した製品であること(サンプル提供と顧客の購入意思の確認)
  3. 数百トン規模ではなく、数千トン規模を同一品質で反復生産できること

まとめ

Verleyの事例は、精密発酵技術が「収率の最適化」から「精製工程の効率化」「量産時の品質再現性」というフェーズに移行しつつあることを示している。価格面では既存の乳由来抽出品と同水準にあり、差別化は機能性による付加価値に依存している点が特徴だ。

こうした大規模設備投資を伴う技術そのものを、資金力の限られた小規模事業者や次世代農家がそのまま導入することは現実的ではない。200万ドル規模の資金調達や20万リットルタンクへの投資は、個人農家や中小の食品事業者が単独で模倣できる規模ではないためだ。

ただし、応用の視点を変えれば示唆は得られる。まず、Verleyが採用した「市場の実需を先に確認してから製品開発を進める」というアプローチは、設備投資の規模に関わらず参考になる考え方だ。小規模な農業・食品事業者であっても、新商品や新サービスを投入する前に、少量サンプルでの顧客反応を確かめてから生産規模を決める、という順序は低コストで実践できる。

また、Verleyが「ホエイと直接価格競争しない」姿勢を取っているように、小規模ビジネスにおいても、コモディティ価格競争に巻き込まれない独自機能性や体験価値(ファンベースを作る要素)を明確化することが、限られたリソースでの差別化につながるとみられる。

導入を検討する際の前提条件としては、原料や技術そのものの模倣ではなく、「実需確認→小ロット検証→段階的スケール」という意思決定プロセスの模倣が現実的な出発点になる。ITリテラシーの面では、顧客データや予約注文(オフテイクに近い概念)を簡易なツールで記録・分析する体制があれば十分であり、高度なシステム投資は必須ではない。ただし、こうした応用はあくまで考え方の転用であり、Verleyが示した具体的な数値や実績をそのまま自社に当てはめられるわけではない点には注意が必要だ。

参考

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