象の鼻型アーム果実収穫ロボ、Picker社の経済性を解説
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果樹の自動収穫というと、アームで果実をつかみ、引き抜き、コンベアに置く「ピック&プレース」方式が主流だった。しかしイスラエルのスタートアップPicker AgRoboticsは、象の鼻のようにしなやかに曲がる中空アームを使い、果実をつかまずに茎を切って転がし落とす「Snip-N-Roll」方式で、この分野のコスト構造そのものを変えようとしている。本記事では、同社共同創業者兼CEOのYossi Rosenblum氏へのインタビューをもとに、技術・経済性・導入規模の3点から事実を整理する。
ピック&プレース型との違い
従来型の収穫ロボットは、硬いアームが樹の奥まで入り、果実を1つつかんで引き戻し、コンベアに置くという動作を繰り返す。Rosenblum氏によれば、これは「非常に高価で、あまり効率的ではない」機械になりやすいという。
Picker AgRoboticsのアームは以下の特徴を持つ。
- 中空(パイプ状)で、果実が内部を通ってそのままコンテナまで運ばれる
- グリッパー(つかむ機構)自体が存在しない
- 枝を避けながら奥の果実まで到達できる柔軟性がある
- 樹の仕立て方(高密度栽培やトレリス仕立てなど)を変える必要がない
動作は「果実に近づき、茎を切り、果実をアームの中を転がして落とす」というシンプルなもので、果実を引っ張らないため損傷リスクを抑えられるとしている。
精密農業(圃場や樹ごとにデータを管理する手法)との接続
このアームにはAIによるリアルタイム画像認識も組み込まれており、果実ごとに熟度・サイズ・品質を判断して収穫するかどうかを決める。これにより、どの樹からどんな果実が収穫されたかという樹単位のデータが自動的に蓄積される点が、従来の「ブラインド収穫(収穫時点では樹ごとの状態が分からない状態)」との大きな違いだとRosenblum氏は説明する。
対象作物と収穫率
開発初期にアボカドでの学習を進めた理由について、Rosenblum氏は「アボカドの樹は大きく、仕立て方も不揃いで、果実も葉と同じ緑色で見分けにくい。これができればオレンジ、レモン、梨、りんごにも応用できる」と述べている。
既存の短く硬いロボットアームでは、収穫できる果実の割合はせいぜい30%程度にとどまるとされる一方、Picker AgRoboticsは95%の収穫率を目標に掲げている。
コスト試算とビジネスモデル
Rosenblum氏が挙げた具体例によると、米国カリフォルニア州セントラルバレーでは、柑橘の手作業収穫コストが900ポンド(約408kg)のビン1箱あたり25ドルであるのに対し、同社の機械では20ドルで収穫できるという。
中長期的な目標値としては以下が示されている。
比較対象 | コスト水準(同社説明) |
|---|---|
現行の手作業収穫 | 基準(100%) |
リース開始時の機械収穫 | 手作業より約20%低コスト |
機械購入後(将来) | 手作業より約50%低コスト |
アームは軽量な工業素材で作られており、長さを1〜2メートル延長してもコストへの影響は小さいという。コストの大半はモーターと制御用コンピューターに由来するとしている。
販売方式については、まずリース契約からスタートし、農家側の初期リスクを抑える設計になっている。導入効果を確認した上で台数を増やし、最終的に機械を購入してもサービス費用のみを低く抑えて継続利用できる仕組みを目指すという。
牽引式でオペレーターを共有する運用設計
同社の機械は自律走行型ではなく、トラクターで牽引する牽引式のユニットである点も特徴だ。1人のオペレーターや1台の自動運転車両が、複数台(4〜5台)のユニットを樹ごとに移動させながら運用することを想定しており、農家が高額な自律型機械を何十台も揃える必要をなくす設計思想がうかがえる。
開発状況と今後のスケジュール
Picker AgRoboticsは2025年2月設立と比較的新しい企業である。以下が公表されている進捗だ。
- これまでに試作機を4台製作し、世代ごとに改良を重ねている
- 本社周辺の果樹園で実地テストを継続中
- 2027年1月から顧客との実証パイロットを開始予定
- パイロット開始時は6台体制(既存4台+新規5台のうち、調整して6台)を予定し、イスラエルから開始、その後カリフォルニア、さらにスペインへ展開する計画
販売チャネルについては、大規模生産者とは直接取引を進める一方、中小規模の生産者に対しては既存の販売代理店・パートナー網を活用する方針が示されている。
まとめ
Picker AgRoboticsの事例が示すのは、「高価で万能な自律機械を1台投入する」のではなく、「シンプルで安価なユニットを牽引式で複数運用する」という発想の転換が、収穫ロボットの経済性を変えうるという点だ。これは労働力不足と設備投資余力の両方が限られる中小規模の農家にとって、特に参考になる考え方とみられる。
応用を検討する際には、以下の前提を踏まえる必要がある。
- 経営面:同社はまずリース契約で初期投資リスクを抑える方針を示しており、日本の中小規模果樹園でも「購入」より「段階的な利用契約」で効果を見極めてから投資判断する発想が応用できる可能性がある。ただし原文で示されたコスト数値($20〜$25/900lbビン)は米国市場での試算であり、日本の労務費・果樹種(柑橘・りんごなど)にそのまま当てはまるとは限らない。
- ITリテラシー面:AIによる果実ごとの熟度・サイズ判定機能は、収穫作業と同時に樹単位の生産データを自動取得できる点が特徴で、将来的には自園の収量管理や品質管理のデジタル化の足がかりになりうる。ただし現状はまだパイロット前段階であり、国内で同等のサービスが提供される時期や条件は明らかになっていない。収穫率95%という目標値も、現時点では開発側の目標であり実証済みの実績ではない点には留意したい。
- 導入ハードル:樹の仕立て方を変えずに使える設計である点は、既存の果樹園をそのまま活用したい小規模農家にとって参入障壁を下げる要素となりうる。一方で、牽引式ユニットを複数台同時運用するには、ある程度の圃場規模とオペレーター確保が前提になるとみられ、極小規模の個人農家がすぐに恩恵を受けられるかは今後の実証データを待つ必要がある。
次世代農家やスマート農業に関心のある小規模事業者は、同社のような「シンプルな機構+データ取得」という設計思想を一つの判断材料とし、自園の作物特性・労務コスト・資金体力と照らし合わせて導入可否を検討するのが現実的だろう。