森林再生×機関投資家マネー 連続被覆林業の経済性とは
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森林を一気に伐採せず、少しずつ間伐しながら管理する「連続被覆林業(Continuous Cover Forestry、以下CCF)」に、機関投資家の資金が本格的に流れ込み始めている。自然資本に特化した資産運用会社SLM Partnersは、オランダの年金投資家APGから1億5000万ユーロ(約167億円)の出資を獲得し、欧州でCCFプロジェクトに投資する新ファンド「SLM Silva Fund II」を設立した。本記事では、技術面・経済性・導入規模の3点から、この事例が示す示唆を整理する。
CCFとは何か、クリアフェル(皆伐)との違い
CCF(連続被覆林業)とは、森林の一部区画を順番に間伐し、常に樹冠(林冠)の被覆を維持しながら管理する手法を指す。これに対し、業界標準とされてきた「クリアフェル(皆伐)」は、一定区画の樹木を一度にすべて伐採する方式だ。
両者の違いを整理すると以下のようになる。
| 項目 | クリアフェル(皆伐) | CCF(連続被覆林業) |
|---|---|---|
| 伐採方法 | 区画の木を一斉に伐採 | 区画の一部を順次間伐 |
| 樹冠被覆 | 一時的に消失 | 常時維持 |
| 再植林コスト | 発生しやすい | 自然更新に依存し抑制可能 |
| キャッシュフロー | 収穫時に集中 | 定期的な間伐で平準化 |
| 主な評価軸 | 木材生産量重視 | 生物多様性・土壌・炭素貯留にも配慮 |
SLM Partnersのマネージングディレクター、ポール・マクマホン氏は、CCFについて「森林から長期にわたって経済価値を最大化する手段」と表現している。クリアフェルが森林全体を一度に収穫するのに対し、CCFは定期的な間伐によってキャッシュフローを安定させやすく、自然更新(苗木を人工的に植え直さず、自然に次世代の木が育つ仕組み)に依存するため再植林コストの回避にもつながるという。
一方でマクマホン氏は、CCFを「万能薬ではない」と明言している。樹齢が進みすぎた森林や、風倒(強風で木が倒れること)のリスクが高い森林、あるいはポプラ林のように輪伐(一定周期で植林と伐採を繰り返す方式)を前提に設計された森林では、CCFへの転換が難しいケースもあるとしている。
欧州における普及状況と政策的後押し
現時点で欧州の森林のうちCCFで管理されているのは推定22〜30%程度とされる。決して多数派ではないが、ここ数年で関心が急速に高まっているとマクマホン氏は述べる。
背景として挙げられるのは以下の要因だ。
- 気候変動に伴う暴風、森林火災、病害虫の増加といった圧力への対応
- EUの「2030年森林戦略」がCCFを気候変動に対する森林のレジリエンス(回復力)向上策として位置づけていること
- アイルランドなど一部の国で、多様な樹種構成の植林を支援する助成金制度が整備されていること
- 投資マネージャー側からの関心の高まり
CCFは従来、環境保護志向や非商業的な森林管理の文脈で語られることが多かったが、マクマホン氏によれば、近年は「商業的な森林管理戦略」として捉えられる場面が増えているという。ただし依然として抵抗感も残っており、どのような森林タイプ・地域で適用可能かをめぐる議論が続いている段階だ。
ファンドの規模と導入実績
SLM Partnersの投資実績は以下の通りだ。
- SLM Silva Fund I(アイルランドで運用):2026年6月時点で2000ヘクタールを取得し、そのうち67%の森林area(林地面積)がCCF管理へ移行済み
- SLM Silva Fund II:APGが年金基金ABPを代理して1億5000万ユーロ(約167億円)を出資し、ファーストクローズ(初回募集)かつファイナルクローズ(最終募集)として成立
- APGは現時点で7億ドル超の資産を監督する年金投資家
Silva Fund IIは、まずアイルランドでのCCFプロジェクトを積み増したうえで、他の欧州諸国へ展開していく方針とされている。1件あたり数百億円規模の資金が、長期運用を前提とする年金マネーから森林セクターに投じられている点は、アセットクラスとしての森林投資が機関投資家に受け入れられつつあることを示す事実として注目に値する。
まとめ
今回の事例は、欧州の機関投資家が長期運用に適した「自然資本」として森林、とりわけCCFによる森林管理に資金を振り向け始めていることを示している。ただし、これは数百億円規模のファンドが数千ヘクタール単位の森林を取得・運用する話であり、個人の小規模林業者や次世代農家がそのまま同じスキームを再現できるわけではない。
とはいえ、考え方そのものは小規模事業者にも応用できる余地がある。例えば、保有する山林や農地の一部で皆伐ではなく段階的な間伐・択伐を取り入れることで、収穫を複数年に分散させ、単年の収入変動を抑えるという発想は、資金繰りに制約のある小規模経営にも転用しやすい。また、生物多様性や土壌保全への配慮を打ち出すことは、消費者や地域コミュニティに対するストーリー性のあるブランディング、いわゆるファンベース構築にもつながりうる。
ただし応用を検討する際は、以下の前提条件を押さえておく必要がある。
- 樹齢・樹種・地形によってはCCFが不向きな森林もあり、専門家による現地診断が必須であること
- 自然更新に依存する分、短期的な木材生産量は皆伐より抑制される可能性があること
- 助成金制度の有無は国・地域によって異なり、日本国内での類似制度の有無を別途確認する必要があること
- IT・データ面では、区画ごとの樹木状態を記録・管理する基礎的な台帳管理やGISツールの活用程度から始められ、高度なシステム投資は必須ではないこと
原文には日本の制度や国内事例に関する記述は一切なく、本記事の応用部分はあくまで海外事例から読者が自身の経営判断に活かすための考察である点に留意されたい。
参考
SLM Partners secures $167m from Dutch pension investor to regenerate forests - AgFunderNews