アップルビーズCMOに学ぶ「価値訴求」疲れを打破する戦略
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外食業界では今、どのチェーンも「値ごろ感」を前面に押し出し、価格競争の消耗戦に陥りがちだ。そんな中、米国の大手カジュアルダイニングチェーン、アップルビーズは「安さ」だけでなく「体験の価値」を軸にした独自のマーケティングで差別化に成功している。本記事では、同社CMOミシェル・チン氏のインタビューをもとに、単なる値引き訴求に頼らないファンベース構築の構造を分解し、リソースの限られた小規模事業者がどこまで応用できるかを考察する。
アップルビーズの現状と「バーベル戦略」の正体
アップルビーズは2026年第2四半期、既存店売上高が前年比1.8%減となる厳しい環境にあった。しかし夏に展開した「オールユーキャンイート」キャンペーンと、テキーラブランドとコラボした高価格帯の「プーリオ・ウィズ・ドンフリオ」キャンペーンの組み合わせが、四半期を通じて段階的な回復に寄与したという。
CEOのジョン・ペイトン氏はこれを「バーベル戦略」と呼ぶ。バーベルのように両端に重りを置く発想で、以下の2つを同時に展開する手法だ。
- 安さを軸にしたアクセシブルな商品(オールユーキャンイートなど、手頃さを前面に出す)
- 文化的な話題性を持つ高単価の体験商品(著名テキーラブランドとのコラボなど、SNSでの拡散を狙う)
この両極を同時に用意することで、「安いから選ばれる」だけでなく「話題だから選ばれる」という2つの動機を同時に刺激し、価格だけの比較から抜け出す構造を作っている。
なぜこの構造が機能するのか
単に安売りするだけでは、競合との価格比較に巻き込まれ続ける。一方で高価格帯の話題商品だけでは、日常利用の裾野が広がらない。両方を並行させることで、「普段使いの安心感」と「たまの特別感」の両方の動機づけを、同じブランドの中で完結させている点が重要だ。これにより、若年層への接点拡大(SNSバズ)と、既存客の継続利用(値ごろ感)を同時に満たしている。
「ネイバーフッド」という概念の再定義
アップルビーズは25年以上「Eating good in the neighborhood(ご近所で美味しく)」というタグラインを使い続けてきた。チン氏はこの「ネイバーフッド(地域コミュニティ)」という概念自体が変化していると指摘する。従来は地理的な近さを意味していたが、現在はデジタル上で同じ興味関心を持つ人々がつながる「オンライン上のネイバーフッド」も含まれるようになった。
この変化を踏まえ、同社は創業46年の歴史で培ったブランドの本質を維持しつつ、次世代の顧客層にも「伝統の一部」として浸透させることを目指している。具体的には以下のような取り組みが挙げられる。
- 社内のマーケティング組織を「売上(短期)」と「ブランド(長期)」の両軸で再編成し、サイロを解消
- 広告代理店BBDOシカゴとの新パートナーシップにより、TV・デジタル・SNS・店舗体験を横断したストーリーテリングを統一
- 従来型の「マーケティングファネル」ではなく、消費者がどのチャネルから接触しても一貫したメッセージを受け取れる設計に転換
クリエイター起用とNFLパートナーシップの設計思想
アップルビーズはクリエイターマーケティングにおいて、「本物であること」を重視している。チン氏は、クリエイターが自分自身の個性を持ち込み、率直なレビューをすることが、ブランドの「あらゆる人が集まる場所」という価値観と合致すると説明する。ランチ利用、女友達とのシェア、深夜のアプリ利用など、多様な利用シーンをクリエイターごとに描き分けることで、ブランドの多面性を可視化している。
NFLパートナーシップでは、元NFL選手マーショーン・リンチ氏を起用した新商品「O-M-Cheese-adillaバーガー」のプロモーションが話題となった。リンチ氏はバッファローでプレーしていた頃から地元のアップルビーズに通う本物のファンであり、撮影時にも自腹で4個のキーサディラバーガーを注文したという。このエピソードが象徴するのは、単なる著名人起用ではなく「本当にブランドを愛している人物」を選ぶことで、宣伝が宣伝らしく見えないという設計思想だ。
ロイヤルティ施策「Date Night Pass」と「2 for $25」の強み
3年目を迎えた「Date Night Pass」は、ポイント制ではなく「体験」を軸にしたロイヤルティプログラムである。チン氏は「ポイントを貯める」仕組みではなく、「手頃な価格で食卓を囲み、思い出を作る機会を提供する」ことを重視していると語る。
さらに注目すべきは、長年続く「2 for $25」プロモーションだ。前菜1品と主菜2品がセットになったこのメニューは、単体で売上全体の25%以上を占めるという。競合が「一人向け」の値ごろプロモーションに注力する中、アップルビーズはあえて「誰かと一緒に祝う」という体験価値を軸に据えている。これは単なる割引ではなく、ブランドの根幹である「ネイバーフッド=人とのつながり」を商品設計に落とし込んだ結果だと言える。
比較:一般的な価格訴求とアップルビーズ流の違い
観点 | 一般的な値ごろ訴求 | アップルビーズ流 |
|---|---|---|
訴求軸 | 単品の安さ | 体験(誰かと一緒に祝う)+安さ |
商品構成 | 低価格商品のみ | 低価格×高話題性のバーベル構成 |
ロイヤルティ設計 | ポイント付与中心 | 体験提供中心(Date Night Pass) |
著名人起用 | 知名度優先 | 本物のファンであることを重視 |
チャネル設計 | チャネルごとに個別最適化 | 全チャネル横断での一貫したストーリー |
まとめ
アップルビーズの事例から読み取れるのは、「値ごろ感」競争に巻き込まれず差別化するには、価格以外の軸——体験・つながり・本物らしさ——を商品やプロモーションの設計そのものに組み込む必要があるという構造だ。これは大手チェーンだけでなく、リソースの限られた小規模飲食店や地域ビジネス、さらには直販(D2C)を模索する次世代農家にも応用できる考え方とみられる。
例えば、小規模事業者であれば「2 for $25」のような