代替卵白の特許訴訟、EVERYがOnego Bioに勝訴
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精密発酵(微生物を工場で培養し、卵や乳由来のタンパク質を作る技術)で卵白タンパク「オボアルブミン」を製造する米EVERY CoとフィンランドのOnego Bioの間で続いていた特許訴訟に、米デラウェア州連邦地裁が決着をつけた。Onego側の訴えは全面棄却され、EVERYが実質的に勝訴した形だ。本記事では、両社の主張の対立点と、裁判所が示した判断の論理を整理し、精密発酵分野のIP(知的財産)リスクが小規模事業者にとって何を意味するかを考察する。
何が起きたのか:訴訟の経緯
発端は2024年秋、Onego Bioが「EVERYの基幹特許(通称’784特許)を侵害していない」ことの確認を求めてEVERYを提訴したことだった。Onegoは菌類Trichoderma reeseiを宿主にオボアルブミンを生産しており、EVERYの特許は複数の宿主生物でのオボアルブミン発現を広くカバーすると主張されていた。
- 2024年秋:Onego BioがEVERYを提訴(デラウェア州)
- 2025年5月:並行して争われていたウィスコンシン州の訴訟も棄却
- 2025年10月9日:デラウェア州地裁がOnegoの請求を全面棄却、訴訟終結
Onegoは「EVERYが不当なライセンス料を要求し、投資家にOnegoの特許侵害リスクを吹聴した」と主張。これに対しEVERYは「Onegoこそが一貫して対立を仕掛けた側であり、EVERYは常に訴訟回避を提案してきた」と反論していた。
裁判所の判断:争点は「侵害の有無」ではなく「訴訟適格」
注目すべきは、裁判所がオボアルブミン特許そのものの有効性やOnegoの侵害有無については判断していない点だ。Joshua D. Wolson判事は、EVERY側がOnegoの権利を積極的に侵害しようとした証拠がないとし、「Onegoが対立を仕掛けた側であることは明らかだが、競合相手に喧嘩を売っただけでは確認判決(declaratory judgment)を求める管轄権の要件を満たさない」と述べた。
また、EVERYのCEOが投資家にOnegoの侵害リスクを伝えたとされる発言についても、「第三者間のやり取りで証拠能力が乏しい」と退けた。Onegoが主張した「EVERYの誇大広告(bio-identical表示)」についても、Onegoが未だ市場に製品を投入していないため「損害が発生していない」として訴訟資格(standing)自体を認めなかった。
両社の主張の対比
| 項目 | EVERY Co の主張 | Onego Bio の主張 |
|---|---|---|
| 特許の位置づけ | 10年以上かけて構築した基幹特許、今後も防衛する方針 | 特許は無効・執行不能であり侵害していない |
| 相手の行動評価 | Onegoが一貫して対立を仕掛けた「唯一の扇動者」 | EVERYが特許を「戦略的武器」として利用した |
| 投資家への発言 | 侵害を伝えた事実はないと否認 | 投資家が侵害懸念から5000万ドルの投資を撤回したと主張(EVERYは否定) |
| 海外特許庁の状況 | 言及なし | 日本・韓国の特許庁が同系統出願を拒絶、欧州・メキシコも異議あり |
| 製品表示 | オボアルブミンのアミノ酸配列は天然鶏卵と同一と説明 | EVERYの「bio-identical」表示を誇大広告と批判 |
技術・経済性・導入規模の観点
技術:両社とも精密発酵でオボアルブミンを製造するが、宿主生物が異なる。EVERYは特許が複数宿主を広くカバーすると主張する一方、Onegoは自社のTrichoderma reesei技術が「根本的に異なる」とし、EVERYの特許はその製法を開示していないと反論している。
経済性:Onegoはウィスコンシン州に製造拠点を計画しており、訴訟による「不透明感(cloud)」が資金調達や事業計画の確定に影響したと主張していた。一方でOnego側は、現時点で「数トン単位のBioalbumenを米国顧客に出荷している」とも述べており、訴訟リスクが実需要の拡大を完全に止めたわけではないことが読み取れる。
導入規模:今回の訴訟はまだ量産・商業化の初期段階にある両社間の争いであり、Onegoは「市場にまだ参入していない」ことを理由に広告表示訴訟の資格すら認められなかった。これは精密発酵による代替タンパク質市場が、法的にも商業的にもまだ成熟途上であることを示している。
今後の火種は残る
判事は、EVERYが「将来的に特許を行使しない」と確約する義務はないとも付言しており、今回の棄却はあくまで「現時点での訴訟管轄の欠如」が理由であることに注意が必要だ。Onego側は「クラリティ(明確化)が得られた」と前向きに総括しているが、実際には自ら起こした訴訟に敗れた形であり、両社の緊張関係が完全に解消されたとは言い切れない。
まとめ
今回の訴訟は、精密発酵という先端バイオ技術領域でも、特許係争が事業拡大のスピードや投資獲得に直接影響しうることを示す事例だ。原文からは、Onego側が「投資家への侵害示唆」が資金調達に悪影響を与えたと主張していたことが分かるが、裁判所はその因果関係を認めなかった。
この事例を、リソースの限られた小規模のアグリフードテック事業者や次世代農家がどう参考にできるか。まず前提として、精密発酵のような特許集約型分野に新規参入する場合、自社技術が既存特許の「宿主生物」「製法」とどこまで重なるかを早期に弁理士等と確認するコストは避けられない。これは数百万円単位の専門家費用が発生しうる領域であり、ITリテラシーというより法務・知財リテラシーが問われる場面だ。
一方で、より小規模な加工食品事業者やブランド農家が直接的な教訓として持ち帰れるのは、「取引先・投資家に向けた技術説明や表示」の正確性管理である。今回Onegoが広告表示訴訟で資格すら認められなかったのは「まだ市場に製品がない」ためだった。逆に言えば、自社製品を市場投入し、表示の裏付け(成分同一性やデータ)を持っておくことが、将来の係争において自社の立場を守る最低条件になる、と原文の構造からは読み取れる。大規模な特許ポートフォリオを持つ必要はなくとも、自社の技術的差別化点(宿主・製法など)を文書化しておくことは、資金調達の場面で投資家からの懸念を払拭する材料になりうるだろう。
ただし、これはあくまで今回の訴訟構造から導ける一般的な示唆であり、精密発酵や代替タンパク質分野特有の規制・特許状況は国・地域ごとに大きく異なる点には留意が必要だ。