フードテック投資の新潮流 栄養×健康とAIが焦点に
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フードテック投資は2020年代前半の代替プロテインブームとその後の調整局面を経て、新しい投資テーマへとシフトしつつある。本記事では、イスラエル・欧州拠点のフードテック特化ベンチャーキャピタル(VC)「Peakbridge」の共同創業パートナー、エリック・シーバー氏へのインタビューをもとに、投資家が次に注目する領域と、その技術・経済性・導入規模の実態を整理する。
フードテック投資サイクルは「底打ち」局面
シーバー氏は、2000年からネスレの戦略的ファンド(運用額7億5000万ユーロ、約844億円相当)でフードテック投資に携わってきた人物だ。同氏は現在の投資環境について、バリュエーション(企業価値評価)は底を打ちつつあるが、ファンド側のポートフォリオ調整(ダウンラウンドや清算)はまだ続くとの見方を示した。
- バリュエーション面では底値圏にあり、投資のタイミングとしては良好
- ただし既存ファンドの再編・清算は今後も発生する見込み
- 投資先は「資本集約型」と「資本効率型」に二極化し、後者の方が資金調達で優位
Peakbridgeは2019年の設立時、5つの投資領域(機能性原料、データ・AI、栄養と健康、代替プロテイン、代替農法)を定め、その後は機能性原料・データAI・栄養と健康の3領域に重点を移した。代替プロテインは「良い投資もあったが、収益化までの時間が長すぎる」とされ、代替農法についても、同社が出資した屋内バニラ栽培企業Vanilla Vidaのような案件は「種子段階の投資から温室の規模拡大、収益化までの期間がファンドの運用期間に対して長すぎる」と指摘されている。
なぜ「栄養×健康」が再評価されているのか
シーバー氏によれば、フードテック黎明期は「サステナビリティ」が投資テーマの中心だったが、消費者が実際にお金を払ってきたのは一貫して「健康」だったという。オーガニック食品や植物由来食品(プラントベース)も、当初は健康的だと見なされて支持を集めたが、一部の代替肉製品が「超加工食品」と位置付けられたことで評価が揺らいだ経緯がある。
同氏が有望視するのは以下の分野だ。
- 臨床試験で効果が裏付けられた機能性原料(食物繊維、プレバイオティクス、プロバイオティクス、ポストバイオティクス、シンバイオティクスなど)
- GLP-1(肥満治療薬として普及が進む薬剤)利用者向けの併用サポート製品・デジタルプラットフォーム
- 女性の健康(妊活・妊娠・更年期前後の骨粗鬆症や筋量減少など、ライフステージごとの栄養ニーズ)
- AIを活用したパーソナライズ栄養(血液・ホルモンなどのバイオマーカー解析に基づく個別アドバイス)
特にGLP-1関連では、製薬大手イーライリリーがウェアラブル端末企業Ouraに出資した事例や、ユニリーバによるサプリメントブランドGrünsの買収、ダノンによる栄養企業Huelの買収など、製薬・消費財・AI企業が入り混じる形でM&A(買収・合併)が活発化している点が、出口戦略(エグジット)の多様化という観点で評価されている。
技術・経済性・導入規模をどう見るか
Peakbridgeが重視するのは「臨床試験の裏付け」があることだ。シーバー氏は、医師との対話で効果を説明できなければ投資対象にならないと明言しており、エビデンスベースであることが経済的価値(保険償還や医療連携での採用)に直結するという論理構造を示している。
以下はPeakbridgeが掲げた投資5分野の概要だ。
投資領域 | 現在の注力度 | 主な課題・特徴 |
|---|---|---|
機能性原料 | 高(重点継続) | Symrise、IFFなど既存大手が出口の受け皿になりやすい |
データ・AI | 高(重点継続) | バイオマーカー解析によるパーソナライズ栄養に応用 |
栄養と健康 | 高(重点継続) | GLP-1関連・女性の健康が新規テーマ |
代替プロテイン | 中(縮小傾向) | 収益化まで時間がかかりファンド運用と相性が悪い |
代替農法 | 低(縮小傾向) | 屋内栽培などはスケールまでの期間が長い |
導入規模に関しては、米国で保険会社が予防医療に対応する診療報酬コード(医療行為を分類するための番号)を整備し始めている点が注目される。NourishedRxのような企業では、個人ではなく保険者(ヘルスプラン)が9カ月間の栄養コーチングサービスの費用を負担する仕組みが実際に稼働しており、個人課金型のサービスに比べて対象者の裾野を広げやすい構造になっているという。
まとめ
フードテック投資は、サステナビリティ訴求から「臨床的に裏付けられた健康価値」へと軸足を移しつつあり、GLP-1関連サービスや女性の健康、AIによるパーソナライズ栄養が次の焦点として挙げられている。これは大手VCやグローバル企業を前提にした話だが、小規模な農業・食品事業者や次世代農家にとっても応用のヒントがある。
例えば、自社で収穫する農産物やオリジナル加工食品に対し、第三者機関の栄養分析や簡易的なエビデンス(成分表示の根拠データなど)を付加することは、クラウドファンディングやD2C(消費者直接取引)でのファンベース構築において差別化要素になり得る。ただし、Peakbridge側が強調するように「臨床試験レベルの裏付け」を独力で用意するのは中小事業者には現実的ではなく、むしろ大学・公的研究機関との連携や、既存の機能性表示制度の活用など、コストを抑えた代替手段を検討する必要があるだろう。
またAI活用についても、個人のバイオマーカーを解析するような高度な仕組みは大規模資本を要するが、顧客の購買履歴や簡易アンケートを使った栄養提案のパーソナライズ程度であれば、既存の安価なSaaSツールで部分的に再現できる可能性がある。経営面では「誰が費用を負担するのか」という問いが本質的であり、保険者モデルのような第三者課金の発想は、法人向け健康経営サービスや自治体の予防医療予算など、日本国内の類似スキームへの転用余地を考える材料になる。いずれも原文で示された米国の事例をそのまま再現できるわけではなく、制度や市場構造の違いを踏まえた上での応用可能性にとどまる点には留意したい。
参考
- AgFunderNews「🎥 Where are foodtech investors looking next after the boom and bust?」https://agfundernews.com/%f0%9f%8e%a5-where-are-foodtech-investors-looking-next-after-the-boom-and-bust