フードテック新手法とは?スイスFOOD FOUNDERSの事業開発モデル
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フードテック業界では「技術ありき」の開発が投資家の関心は集めても、実際の産業課題解決に結びつかないケースが多く指摘されてきた。この記事では、スイス発のベンチャースタジオFOOD FOUNDERS Studioが採用する「課題起点」のベンチャー構築モデルと、その資金調達の実態を解説する。日本のアグリテック・フードテックスタートアップが自社の事業開発に応用する際の視点も合わせて紹介する。
FOOD FOUNDERS Studioが新規資金調達、次の2社を構築へ
スイスを拠点とするベンチャースタジオFOOD FOUNDERS Studioは、ファミリーオフィスやエンジェル投資家から総額400万ユーロ(約4.5億円)の資金調達を完了した。この調達は募集額を超える「オーバーサブスクライブ」の状態だったという。調達資金は、同スタジオのポートフォリオに加わる次の2つのスタートアップの構築に充てられる。
同社の特徴は、一般的なスタートアップ投資とは逆のプロセスを踏む点にある。共同創業者のジャコモ・カッタネオ氏は、過去10年のフードテックについて「投資家を興奮させるための技術先行型が多く、業界や消費者を本当に満足させるものは少なかった」と指摘する。
課題定義が先、起業家は後から
FOOD FOUNDERS Studioの事業構築プロセスは以下の順序で進む。
- 食品製造業が抱える具体的な課題を特定する
- その課題を解決しうる技術の「種」を探索する
- 事業として成立するかを検討し、実際に会社を立ち上げる
- 会社設立後に創業者・CEOを招聘する
カッタネオ氏は「我々は技術を市場に届けるためにスタートアップを作る。この課題定義のプロセスを先に済ませ、大手企業(コーポレート)を巻き込み続ける。会社ができた時点で、すでに顧客がいる状態になっている」と説明する。
第1号案件SentiaNovaの事例
同スタジオが最初に手がけた企業SentiaNovaは、今年ステルスモードから姿を現した。同社は、えんどう豆などの植物性(パルス)タンパク質に頻発する「オフフレーバー」と呼ばれる不快な風味の問題に取り組んでいる。特許技術によってこの風味を除去し、タンパク質全体の機能性を向上させる技術を持つ。すでにCEOを採用し、商業生産に向けた準備と独自の資金調達ラウンドを進めている段階にある。
技術ソースの拡大とコーポレートR&Dとの連携
FOOD FOUNDERS Studioは当初、技術シーズを大学発の研究のみから調達していた。カッタネオ氏によれば、欧州では「特許文化がほとんど存在しない」ため、大学内に有望な技術が埋もれたままになりやすいという。
今後は調達源を広げ、大学に加えて大手企業の研究開発(R&D)部門や、有望な技術を持ちながら適切な市場を見つけられていないスタートアップ(カッタネオ氏いわく「セカンドチャンスに値する知的財産」)からも技術を探索する方針だ。
背景には、大手食品企業の社内R&D予算が近年縮小傾向にあるという事情がある。カッタネオ氏は「競争優位の源泉を社内R&Dから得られないのであれば、企業は外部から調達せざるを得なくなる」と述べる。
大学発・企業発いずれの技術シーズも、同じ産業的・技術的・商業的基準で評価される点は共通している。
注力領域と対象外領域
現在の主力領域はB2Bフードテックで、具体的には以下のような食品の特性改善を対象とする。
注力領域 | 具体例 |
|---|---|
味・風味の改善 | パルスタンパク質のオフフレーバー除去など |
食感の改善 | テクスチャー関連技術 |
コスト・手頃感 | 製造コストの低減 |
栄養構成 | タンパク質・食物繊維・脂質の最適化 |
技術選定自体は特定分野にこだわらない「テクノロジーアグノスティック」な姿勢を取るが、現時点では発酵技術や培養肉のような設備投資(capex)負担が大きく、規制の道のりが長い領域は意図的に避けているという。カッタネオ氏は「我々はスピードを重視したい。業界が今まさに必要としているものに取り組みたい」と語る。
次の展開:Studio 2.0と農業・健康領域への拡大検討
今回の資金調達により、同スタジオは次の2社の構築に着手する段階にあり、現在は両社を率いる創業者・CEO候補を積極的に探している。
さらに先の構想として、カッタネオ氏は「Studio 2.0」の範囲を検討し始めており、農業、健康、ロングビティ(長寿)といった領域への拡大可能性にも言及している。
同氏は食品産業の将来について「古い産業だが生き残る。そして常に自己革新を続けなければならない」と述べ、「有望な技術だけでは不十分というのが、フードテック市場が学んだ教訓だ。業界が本気で解決したいと思う課題、事業化できる技術、そして市場に届ける適切な人材が必要だ。会社が設立された時点でこれらを揃え、すでに顧客がいる状態を作ることで、成功と影響力の可能性を高めている」と結んだ。
まとめ
FOOD FOUNDERS Studioの事例が示すのは、「技術ありき」ではなく「産業課題ありき」でベンチャーを構築するアプローチの有効性である。日本のアグリテック・フードテックのスタートアップやベンチャー企業にとっても、この順序の発想転換は参考になりうる。すなわち、自社が保有する技術シーズを起点にするのではなく、食品製造業や農業現場が実際に抱える具体的な課題(風味、食感、コスト、栄養など)を先に特定し、それを解決する技術を後から組み合わせるという発想である。
ただし応用を検討する際には、いくつかの前提条件を踏まえる必要がある。第一に、同スタジオのモデルは大手食品メーカーとの関係構築が前提にあり、事業化段階で「既に顧客がいる」状態を作れることが強みになっている。日本のベンチャーが同様の手法を採る場合、大手メーカーのR&D部門や商品開発部門との早期の対話チャネルを持てるかどうかが成否を分けるとみられる。第二に、同スタジオは発酵や培養肉のような設備投資(capex)が重く規制対応に時間がかかる領域をあえて避け、スピード重視で動ける領域を選んでいる。日本のアグリテック・ベンチャーが新規事業領域を選定する際も、自社の資金体力と規制対応力に見合った技術分野を見極めることが、経営判断としては重要になる。第三に、ITリテラシーの観点では、このモデル自体は高度なソフトウェア基盤を必要とするものではなく、課題定義・技術評価・事業設計のプロセス設計力が核心である点も見逃せない。したがって、エンジニア採用よりも、業界課題を深く理解し事業化できる人材の確保が優先事項になると考えられる。
海外のベンチャースタジオモデルをそのまま輸入することは難しいが、「技術シーズより先に顧客課題を定義する」という原則は、規模の大小を問わず応用可能な視点だろう。
現場で使える!専門用語ミニ辞書
- ベンチャースタジオ
- アイデアや技術を自ら発掘し、起業家を後から招聘してスタートアップを量産する事業モデル。通常のインキュベーターと異なり、会社設立前から事業設計を主導する点が特徴。
- オーバーサブスクライブ
- 資金調達において、当初の募集金額を上回る応募があった状態を指す。投資家からの需要の高さを示す指標として使われる。
- オフフレーバー
- 食品や原料に含まれる、本来意図しない不快な風味・臭いのこと。植物性タンパク質などで課題になりやすく、製品の消費者受容性に直結する指標となる。
- パルスタンパク質
- えんどう豆や豆類(パルス)から抽出された植物性タンパク質。代替タンパク源として注目される一方、風味や機能性の改善が実用化の鍵となる。
- B2Bフードテック
- 食品メーカーなど企業向けに技術や原料を提供するフードテック領域。消費者直販(B2C)とは異なり、既存の製造・流通網を持つ企業との連携が前提となる。
- capex(設備投資)
- 工場や生産設備など、事業化に必要な大規模な初期投資のこと。capexが重い技術分野は資金調達のハードルが高くなる傾向がある。
- テクノロジーアグノスティック
- 特定の技術分野にこだわらず、課題解決に最適な技術であれば分野を問わず採用する姿勢のこと。
参考
Exclusive: FOOD FOUNDERS Studio secures new funding to build its next two foodtech ventures
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